「大地讃頌」事件を振り返る

 私の大好きなジャズバンド『PE’Z』が今年いっぱいで解散するとの報に触れて寂しい限りですが、比較的多くの人に知られているのがこのPE’Zの『大地讃頌』(だいちさんしょう)事件でしょう。

この曲は昭和37年に大木惇夫作詞、佐藤眞作曲で作られた「混声合唱とオーケストラのためのカンタータ『土の歌』」の終曲ということになっています。小中学校の合唱コンクールでは定番ですね。こちらも重厚な中に優しさを感じる、私の大好きな歌です。

さて、平成15年にPE’Zがこの『大地讃頌』をインストゥルメンタル用に編曲した上で演奏収録し、アルバムの一曲として発売しました。PE’Z側はこのとき、JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)の事前許諾を得てこのアルバムを発売しました。私もこの曲を聴いたことがあり、当時はPE’Zが原曲に対して抱いているリスペクトがビンビンと伝わって感動したものです。

ところが、ここに一つ大きな落とし穴がありました。

作曲家であり著作者の佐藤氏は、『大地讃頌』に対する自分の編曲権と同一性保持権を侵害されたとして、アルバムの販売差し止めを求めてPE’Z側を訴えたのです(正確には「仮処分」の申立てを行いました)。

『JASRACの事前の許諾を得ていたのだから何も問題ないのでは?』

そうお思いになる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、佐藤氏が指摘したとおり、編曲権(著作権上は「翻案権」といいます)と同一性保持権は、もともとJASRACの許諾の対象ではないので、これらについては佐藤氏本人の事前の許諾が必要なのです。同一性保持権(作曲内容の同一性を無断で改変されない権利)に至っては、法律上著作者が他人に譲渡することもできません。こうした著作者が誰にも譲渡もできず、相続の対象にもならない権利を、法律上「著作者人格権」といいます。

結局PE’Z側の自主的な判断で、アルバムの販売を中止することで和解が成立し、事件は終結を見ました。

このような事件が生じた背景に、ポピュラーミュージックでは作曲者側も編曲大歓迎で、どんどん自分たちが作った歌を自由に編曲して周囲に広めてほしいという感覚があるのに対して、クラシカルな音楽では著作者側が編曲についても原曲に従うことを強く希望していて、第三者による勝手な編曲を強く嫌がるという傾向があり、PE’Z側がこのあたりを読み違えてしまったのでは?という点が指摘されています。

著作権に関する法律は、このように一般の方の感覚で十分通用するようでいて、実はそうでない場合が少なくありません。特に著述、音楽、創作などのクリエイティブな活動に励む方は、十分にご注意いただければと思います。

以上

コラム:企業法務

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